2008年11月発行
全日本病院出版会
「実践 肩のこり・痛みの診かた治しかた」掲載
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目次
●はじめに
●整形外科における睡眠の意義
●肩こりを睡眠姿勢から予防・治療する
●枕の高さに影響する体格,ほか要素
●枕の調節方法(SSS法)
●枕を用いた症候性肩こりの予防・治療
●枕以外の睡眠環境
●おわりに
これまで整形外科領域において肩こりは重視されることなく,治療を議論する以前に,疾患として原因,病態,定義,診断さえ確立されていなかった.しかし近年,日本整形外科学会学術プロジェクトで肩こり調査部会が立ち上がり,病態の解明と治療の研究が行われている.この肩こり治療の夜明けともいえる現在,当院ではユニークな視点から,しかし根本的な治療になるべき肩こり治療,予防として睡眠姿勢を研究している. 最新の臨床知見を含め紹介する.
整形外科用語集には,睡眠姿勢はおろか睡眠という用語すら記載はない.整形外科領域における睡眠への関心の低さを感じる.生物学的,生理学的そして解剖学的(脳,身体)に睡眠の意義はまだ解明されていない.この段階で,最も最適な睡眠姿勢を定義するのは,その方法論としても問題は山積みである.良い睡眠姿勢の評価とは何を用いるべきか,脳波で観察するのか,終夜ポリソムノグラフィーで測るのか,四肢の筋電図を評価するのか.しかし脊椎動物にとって,睡眠中のみが,脊椎,脊髄に重力が体軸方向にかからず,アライメントの修復,神経や周囲の筋,靱帯,関節ほかあらゆる組織の回復の時間と考えると,まず脊椎,脊髄の画像評価,臨床症状の評価が必要である.
起立時における良い姿勢の条件を,猪飼ら(1977)は,(1)力学的安定,(2)生理学的に安定,(3)生理学的に疲労しにくいことを挙げている.睡眠姿勢も同様と考えられる. 我々は睡眠姿勢を,静的睡眠姿勢と動的睡眠姿勢(寝返り)の2つの観点で評価してきた.当院で考案した枕の調節法(set-upforspinalsleep法;SSS法,特許第4024152号)を用いて,最少エネルギーで可能な寝返りが可能となることが,心身を回復する良い睡眠姿勢であるという立場から解説する.
3,000万年前に二足歩行,直立姿勢をとるようになった人類にとって,肩こりを生じる頚部から肩甲骨周囲は,起立時には解剖学的に不安定な構造にある.現代人は頚部や肩に負担をかける姿勢として,仕事中のうつむき姿勢,パソコンに向かう長時間の座り姿勢,家事や趣味におけるかがみ姿勢などを認識し注意しているが,いずれも起きているときの姿勢である.臥床時のみが,頚椎に平均5〜8kgの頭蓋骨の重さがかからず,頚部から肩甲部周囲の筋・靱帯群の支持を必要としない安静位が確保できるが,睡眠姿勢については指針を持たない.有訴者の多くは,睡眠姿勢を決定する寝具条件,とりわけ枕に問題や原因があることに気がついている.2003年4月〜2006年9月に当院に枕の相談に来院した患者3,670人について調査すると,主訴として最も多いのは肩こり3,129人(85.3%),2番目は不眠1,477人(40.2%),3番目に頭痛1,466人(39.9%),いびき1,196人(32.6%),手のしびれ1,070人(29.2%),無呼吸283人(7.7%),寝返りがつらい,寝返りで目が覚める,と続く.つまり肩こりの原因が寝具にもある,逆に寝具が適合しないと肩こりが改善しないと考えていると推察される.この症例が使用していた枕の素材は,最も多かったのは低反発ウレタン(24%),続いて羽毛(20%),そばがら(18%),プラスチックチップ(17%)であった.いずれも頚椎の安定,良肢位を獲得できるものではなく,個人に適合する高さや硬さを選択する基準もない.当院の研究から,睡眠姿勢を決定する条件の約7割は枕であると考えている.ほか,敷き物,掛け物,シーツ,寝間着などの形状,素材なども影響する.覚醒時の起立姿勢は自己の意識で決定するものであるが,睡眠時の睡眠姿勢は自己の意識の及ばないところである.つまり身体を預ける寝具の選択が睡眠姿勢を決定するといっても過言ではない.自己に適合する適切な寝具の選択が重要である.
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