コラム詳細

50年かかった初の英語の枕論文—父の時代からの歴史・8年間の研究計画と実行の全記録

50年かかった初の英語の枕論文——歴史・研究計画・実行の全記録

16号整形外科院長であり山田朱織枕研究所代表の山田朱織(やまだしゅおり)が解説します。

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2023年2月2日にザ・ジャーナル・オブ・フィジカル・セラピー・サイエンスに掲載された私の枕の英語論文。この1本の論文が世に出るまで、父の時代から数えて50年(半世紀)かかりました。

論文原文

Changes in neck pain and somatic symptoms before and after the adjustment of the pillow height

要約:16号整形外科(相模原市)院長の山田朱織氏らは、同クリニックが開発したSet-up for Spinal Sleep(SSS)法に基づき、個別の枕の高さを厳密に調整し、首の痛みや身体症状の変化を検討。その結果、身体的な頸部痛が有意に改善されたと J Phys Ther Sci(2023; 35: 106-113)に報告した。

この記事では、論文の内容・結論そのものではなく、論文作成に取り組み始めてから完成までの8年間の軌跡——父の時代からの歴史、研究計画の立案、実行、そして何度もの却下と再挑戦——について詳しくお話しします。

論文の内容・結論・海外研究との比較については姉妹コラムをご覧ください。
「整形外科医が書いた世界的に珍しい枕の英語論文——内容・結論・意義を徹底解説」はこちら

目次


皆さんは「英語論文」と聞くとどんな印象をお持ちでしょうか。難しそう、自分には関係ない、と思うかもしれません。でも実はとてもシンプルなことです。英語論文を書いて公開するということは、自分が信じる事実・科学・真理を世界中の人々に永遠に伝える方法なのです。

Pubmedという英語論文検索サイトに「pillow(枕)」と入れると私の論文が約62番目、「pillow height(枕の高さ)」で検索すると5番目に出てきます。

PubmedでのPillow論文検索結果

全世界の医学者・科学者がこのサイトで新しい論文を検索します。日本語の論文しかなければ、どんなに素晴らしい理論でも世界では認識されません。英語でないと世界に届かない——これが英語論文発表の原動力でした。

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枕の真実に気づいた瞬間——なぜ英語論文が必要だったのか

当院は私の父が町田市の成瀬で「成瀬整形外科」を開業したことに始まります。

成瀬整形外科の看板

その後父が亡くなり、私は神奈川県相模原市に「16号整形外科」として移転し現在まで続けています。

16号整形外科の外観

1972年から数えて50年以上。この整形外科では大きく2つのことを行っています。

  • 臨床:患者様を診察し、治療を行う日常診療
  • 学術:日々の診療から生まれた疑問を科学的に検証し、世界へ発信する研究活動

父はほとんど論文を残しませんでした。英語はおろか日本語の論文も。そこで私は気づきました。世界に残さなければいけない枕の真実がある、と。新聞・書籍・テレビは時間と共に消えていく。学術論文がなければ、重要な真理が世界から消え去ってしまう——これが英語論文への出発点でした。


枕の歴史を紐解く——父のカルテと世界の起源

1977年、父が開業して間もない頃のカルテを見ると、中に「枕」という漢字が書いてあります。

1977年の父のカルテに書かれた枕の記録

しかし父には枕論文がない。日本の枕論文の歴史を紐解いても、2003年当時は整形外科領域でわずか3本ほど(MRIでの枕比較・頚椎捻挫患者への枕・枕の素材)しかありませんでした。

世界に目を向けると、1940年代のルース・ジャクソン先生がすでにたくさんの枕論文を残しています。

ルース・ジャクソン先生の研究と歴史

先生はアメリカ整形外科学会初の女性会員となり、1983年に研究室を設立。名実ともに頚椎研究の第一人者です。世界の枕研究は70年以上の歴史を持ちながら、整形外科医が書いた論文は今なお極めて少ない——これが私の挑戦の背景です。


枕に関する海外論文と私の考え方の比較

海外と私の研究で最も重要な違いは「枕の何を重視するか」です。

  • 海外論文:枕の素材・形・頭部の温度が重要
  • 私の研究個人の体格に合った枕の高さを決定し、寝返りが最もスムーズにできることが最重要

枕の高さ比較についても根本的な違いがあります。

  • 海外論文:5cm・10cm・14cmという「5cm差」での比較が主流
  • 私の研究5mm単位——海外の10分の1の細かさで高さを調整

「5cmも差があれば誰でも違いがわかる」というのが私の見解です。本当に重要なのは5mm単位の精密な調整であり、これが整形外科枕の根幹となっています。

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枕の研究計画と実行——チーム結成から統計処理まで

同志・メンターに出会い、チームをつくる

研究は一人ではできません。必要な役割は以下のとおりです。

  • 総合的な指揮者
  • データサイエンス・統計解析の専門家
  • データ解析・論文調査の担当者
  • 研究計画を立案し、実施・データ収集を進める実働チーム

東京大学22世紀医療センターの松平教授・岡教授との出会いが、この研究を可能にしました。当院でも受付・看護師・介護スタッフなど多くの専門家が力を合わせました。

山のような書類との戦い

研究を始める前には、計画書・倫理審査の依頼書・患者様への説明書・同意書・同意撤回書など膨大な書類を揃える必要があります。また臨床研究を行うには「臨床入門」の資格も必要で、私もオンラインで授業を受けて資格を取得してから研究に臨みました。

研究に必要な書類と倫理審査

研究デザインの重要性

論文は研究発表と異なり、非常に高い精度が求められます。最終的にどんな結論を証明したいかによって、スタートの設計(研究デザイン)が変わります。

今回は「頚部痛のみならず、様々な睡眠障害を含む身体化症状が改善しているかどうか」を統計的に証明するデザインを採用しました。

データ解析・統計処理の重要性

私はデータ解析の専門家ではないため、東大の松平教授・岡教授のアドバイスをいただき、MCID(臨床的に意義のある最小変化率)という手法を用いました。これは「研究結果が患者様にとって本当に意義のある差かどうか」を検証する方法です。この選択が論文の信頼性を大きく高めました。

枕の論文化の難しさ——8年間の苦難と何度もの却下

初めての論文投稿は、困難の連続でした。

雑誌社からは何度も何度も却下されました。それでも学びながら、またトライするしかない。私が目指したのは「権威あるジャーナルに掲載されること」ではなく、「世界中の人に枕の真理が伝わること」でした。だからインパクトファクター(雑誌の格付け)にとらわれず、枕の高さ調節と寝返りの重要性が伝わるジャーナルを選び続けました。

また、今回の論文の前に「枕の調節法・寝返りのスムーズさの定義」を論文化する必要があり、その段階からすでに苦難が続きました。

こうして8年間の紆余曲折を経て、やっと1本の医学論文が世界に出たのです。

インターネット上に掲載された論文は、廃盤になりません。
私は枕の理論を世界中の人々に永遠に知ってもらうチャンスを得た——それがこの論文の最大の意味です。

諦めなければどんな高い山でも必ずゴールに辿り着ける。そのことも、この8年間で学びました。

論文の内容・結論はこちらで詳しく解説しています

「首の痛みが臨床的に有意に改善」した研究結果、海外論文との5つの違い、多施設共同研究の全容は姉妹コラムをご覧ください。

整形外科医による枕の英語論文——内容・結論・意義を徹底解説 →
  • 世界的に珍しい整形外科医の英語の枕論文

    「世界的に珍しい」

    今回の英語論文で私が伝えたかったことは
    枕の高さ調節によって
    首の痛み、不眠、自律神経症状が改善するという事実
    ——つまり枕は整形外科の治療道具になり得るということです。

    論文の内容・結論を読む
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    「山田朱織(やまだしゅおり)とは?」

    16号整形外科院長 医学博士
    ㈱山田朱織枕研究所 代表取締役社長 マクラ・エバンジェリスト
    治療の一環として枕を指導する「枕外来」を開設し、睡眠姿勢や枕の研究を行っております。

本コラムの内容は動画でもお話ししています▼

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